■ヨーロッパ連合(EU)は、統合や分裂など、時と場合によって様々な様相を呈する。そのようなEUをどのように捉えたらよいか。本書はEUの根幹たる域内市場統合とEU-加盟国間関係とに焦点をあてて、EUすなわちEU-加盟国間関係のあり方を変化に富むものにしている4つの要素を提示する。EUに関心をもつ研究者、専門家、実務家、学生が一度は考える問題に対して取り組んだ、EU研究の意欲作。
《序文より》
■はじめに
本刊行物は、EU(欧州連合、ヨーロッパ連合)に対する接近方法についての研究である。
専門家であるか否かにかかわらず、現代ヨーロッパ情勢に関心を抱く方は多いのではないだろうか。ヨーロッパは主権国家システム発祥の地であり、二つの世界大戦の戦場であり、戦後には不戦共同体の創設が試みられた場である。独仏和解の象徴だといわれる欧州石炭鉄鋼共同体が今日のEUの起源であることを想起すれば、EUは主権国家発祥の地においてこれを超えようとするかのようにも映り、非常に刺激的である。そのEUが、ブレトンウッズ体制崩壊、グローバル化、冷戦終結といった国際政治経済情勢のダイナミックな変化に合わせて、市場統合計画、経済通貨同盟、共通外交安全保障政策などの取り組みをすすめていく様子もまた刺激的である。近年は少子高齢化、低成長、高失業への取り組みもおこなわれており、同じような問題に直面する日本人としてはその動向が気になるところである。さらに、ビジネスでヨーロッパを相手にしている人であれば、EUが整備しようとしているビジネス環境あるいは規制政策も気になるところだろう。東アジア地域経済協力のモデルとして、EUに関心を抱く人もいることだろう。(以下略)
《内容:目次より》
目次
はじめに i
略語一覧 v
序章 なぜ、いま域内市場統合とEU加盟国間関係を研究対象にするのか? 1
第1節 なぜいま域内市場統合なのか? 理論研究上の意味、事例研究上の意味 2
1)理論研究上の意味
2)事例研究上の意味
第2節 なぜいまEU加盟国間関係なのか? 9
1)EU統合プロセスの根幹としてのEU加盟国間関係
2)EU加盟国間関係にバリエーションをもたらす諸要因
第3節 本書の概要と構成─本研究のねらいと議論の展開 13
第1章 域内市場統合とEU統合理論研究:既存「理論」研究の批判的考察 19
第1節 域内市場統合計画にみるEU加盟国間関係の要諦 21
第2節 既存の部分理論に対する検討 24
第3節 本書で用いる思考方法 29
第4節 小結 33
第2章 電気通信分野におけるEU加盟国間関係:域内市場の機能vs.事業の公共的側面 39
第1節 端末機器指令・電気通信サービス指令と加盟国による抵抗 40
1)EU側の計画立案と端末機器指令・電気通信サービス指令の形成過程
2)加盟国の国内政治過程:受容可能性をめぐる政策選好の集約
第2節 電気通信市場完全自由化と加盟国国内情勢 51
1)完全自由化へ向けたEUレベルの諸政策形成過程
2)加盟国の国内政治過程:受容可能性をめぐる政策選好の集約
第3節 小結 57
第3章 遺伝子組換穀物認可をめぐるEU加盟国間関係: 65
域内市場の機能 vs. 環境・消費者保護
第1節 EU側の規制目的の変化と加盟国の要求との齟齬:EU加盟国間対立の遠因 66
第2節 実際の認可をめぐる加盟国の抵抗、モラトリアム 70
第3節 EU側の論理の受容をめぐる加盟国の国内情勢 76
第4節 小結 80
第4章 サービス指令案をめぐるEU加盟国間関係: 87
域内市場の機能vs.加盟国の雇用・社会政策
第1節 指令案提出の背景と水平的アプローチ・母国原則: 89
指令案の目玉に内在した対立の遠因
第2節 2004年拡大を契機にした加盟国の受容拒否と指令案の修正 92
第3節 小結 96
第5章 域内市場統合におけるEU加盟国間関係が与える示唆(1): 105
裁量的政策調整を題材にして
第1節 OMCの対象政策領域と政策方式:理論的、実証的特徴 107
第2節 OMCの政策方式としての現状─参加、パートナーシップ、 111
学習、オーナーシップ─
第3節 OMCと共同体方式の本質的な異同 113
1) 理論的な観点からの異同
2) 実証的な観点からの異同
第4節 小結 119
第6章 域内市場統合におけるEU加盟国間関係が与える示唆(2): 123
基本条約の変遷が体現するEUの姿とその課題
第1節 ローマ条約と単一欧州議定書:限定された政策領域と多様性が可能にした統合の牽引 125
第2節 マーストリヒト条約:EU内の一体性浸食の引き金 128
第3節 アムステルダム条約とリスボン条約:さらなる多様性進展、一体性浸食へ 134
第4節 小結:受容拒否が容易になるしくみのなかでのEU「統合」のありかた 137
終章 本書の発見、貢献と課題 143
第1節 本研究の出発点、問題意識 143
第2節 本研究の発見:各章で明らかにしたこと 143
1) EU理解の根幹たるEU加盟国間関係:既存部分理論の
検証から加盟国側の受容可能性に焦点をあてた思考方法へ
2) 加盟国側の受容可能性に影響を与える諸要因:
域内市場統合分野の事例を通じて得た知見
3) 加盟国側の受容可能性を軸にしたEUの分析:
域内市場統合におけるEU加盟国間関係がもたらす示唆
第3節 本書の貢献と今後の研究課題 153
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■著者略歴
井上淳(いのうえ・じゅん)
1974年生まれ
慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻修士課程修了
慶応義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学
法学博士(慶応義塾大学)
2006年4月 立正大学経済学部非常勤講師
東京女学館大学国際教養学部非常勤講師
2008年4月 慶応義塾大学ジャン・モネEU研究センター研究員
2008年7月 一橋大学経済研究所専任講師(至2011年3月)
2009年4月よりEUSI (EU Studies Institute) in Tokyo研究員を経て2011年4月より 大妻女子大学比較文化学部助教